10年前、福島県で集団自殺事件が発生し、15人が死亡。首謀者の部屋には、チヨダ・コーキの書籍と関連グッズが溢れていた。マスコミは「チヨダ・コーキの小説のせいで起こった悲劇」と騒ぐ。コーキはインタビューで「責任を感じますか?」と聞かれ、「僕が書いたものが、そこまでその人に影響を与えたことを、ある意味では光栄に思います」と答えてしまう。日本中に、コーキに対するバッシングの嵐が吹き荒れる……。
10年後、脚本家の赤羽環は、知り合いの老人から旅館だった建物を譲り受け、アパートに改造。「スロウハイツ」と名付けて、友人たち5人と暮らし始める。その中には、あのチヨダ・コーキの姿もあった。そこへ新たな住人として、小説家志望の加々美莉々亜がやってくる。莉々亜はコーキの大ファンで、彼の部屋に入り浸り始める……。

「口に出せないほどどうしようもなく好きなものが、私にはある。」
この言葉は、主人公・環が自分が大好きな小説と、その作者に対して思ったことです。自分が好きなもののことが誇らしくて、それを好きでいられる自分のことが嬉しくって嬉しくって──というこの気持ちは『スロウハイツの神様』という作品を支える一番の核であると同時に、私自身が多くの作品に対して思い続けてきたことです。
キャラメルボックスの舞台は、私にとって、ずっと、そんな大事なもののひとつでした。
作中のあの子たちに教えてあげたい。
「環! コウちゃん! キャラメルで舞台になるって! 嬉しいよぉぉ」
辻村深月
原作小説がコミックにもなりました。桂明日香氏が講談社「ハツキス」にて好評連載中!